読者が喜んでくれる記事とは
読者にとって有益と感じる記事だ。
で、何が有益なんだろう?
わからな過ぎて手が止まる。あの人は次々有益な記事を書いているのに、自分は……
本村鯉次郎(もとむら こいじろう)は45歳のサラリーマン。彼にはもう一つの顔「鯉@年収3000万円のぼり親父」で、SNSを中心に活動している。
主にマーケティング、およびAIを使った日記を書いている。
神様(?)からの注文
鯉次郎は息子の伝助(でんすけ)と一緒に走っていた。ランニングもつぶやきのネタになる。
「少し休もうよ、親父」
伝助が壁にもたれる。
「じゃあ、あとこの階段を上ってからだ」
めがび神社にたどり着いた。鯉次郎はふと、気になることがあり、祭壇前に立った。
「あ」
一万円が出ていった……だと。
「喜びなさい、記事ネタが増えました」
伝助が、いない。景色も、ない。俺しかいない。
「こ、ここは」
「あなたが求めていた有益な記事ネタ、ですよ」
誰も、いない。
「いますよ」
「え、どこから声が」
「あなたが決めればいい」
鯉次郎は自分の胸を見た。
「確かに記事ネタにはなります。神社で参拝したら、変な空間に閉じ込められて、どこからか、声が聞こえる……なんて」
「あなたが実際に記事を書くか、期待していますよ」
「親父ぃ」
伝助の声に心臓が止まりそうになった。伝助は足を揺らしている。
「で、伝助」
「ここ、怖いわ。なんか、変なところに連れていかれて、いろいろ言われた」
「……な、何を言われた?」
伝助が震わせながら
「苦手を創るの、楽しいですかって」
記事執筆
鯉次郎は記事の執筆にAIを使っている。
鯉次郎はめがび神社に関する記事を書こうと思った。スマホから録音アプリを出し、
「今回、めがび神社で不思議な体験をした。一万円を払ったら変な空間につれていかれた。不気味な場所だった。息子が怯えてた」
ここからAIを使い、記事を書く(書いてもらう)。記事が簡単にできた。投稿ボタンを……手が止まる。
「……これは読者の役に立たない。これだったらつぶやいて終わりでいい」
ツイッター(X)にめがび神社で起きた内容を投稿しようと
「ちょっと待て」
鯉次郎が呟き、投稿も止めた。
「あまりにもくだらなすぎて、いや、面白さもなさすぎて、つぶやいても反応は来ない。こういうのは読者が反応しない」
鯉次郎は腕を組んだ。別のSNS「サブスタック」を開いた。多くのビジネスマンがつぶやいたり記事を上げてたりしてる。
「……やはりビジネスのヒントにつながる記事でないと、書いても無駄だな」
次にnoteを開いた。
「……この日記は面白いが、俺が書く内容でない」
お腹がすいた。気づけば昼になっていた。食堂に向かうと、妻の道子(みちこ)が飯を食べていた。
「今日はどんな記事を書いたの?」
「それが書けなかった」
「どうして? 伝助と一緒にめがび神社へ行ったんでしょ」
鯉次郎はパンをちぎって一口入れる。
「実際に書いてみると、特に驚きもないんだ。というか、読者はこんなの求めてないよなって」
「いやいやいや、不思議な体験があったんだよ。面白いじゃない」
「だったら道子がnoteで書いてみるといいよ。道子のnoteは雑記だから」
「そうね……あなた、教えて、めがび神社であったことを」
夫婦は飯を食べ終えた。鯉次郎が食器を洗い、道子はさっそく文字起こしアプリで記事を書く。鯉次郎から見ると、道子の記事はただの日記だった。
2日後。道子のブログは訪問数954人、いいねが232個ついていた。鯉次郎は再び音声を手に取り、記事を書こうとするが……止まる。
「俺の成功でないから、書いても無駄だな」
お前の情報に価値を感じない
「え、俺にとって有益な情報って?」
鯉次郎の悩みを聞き、私は鯉次郎に尋ねた。私と鯉次郎は同業者だ。
「有益な情報を書くなら、まず何が有益かわからなきゃ、書けないじゃん」
「言われてみれば……まあ、ビジネスノウハウだな。アクセス数を増やす方法、売れるべくして売れるマーケティング、時流に関係なく売れる商品の作り方、人気の取り方、リピート購入する方法、それと、それと……ああ、自動的に儲けの道を創るAIとの付き合い方だ」
鯉次郎はコーヒーをお替りした。
「で、鯉さんが取り組んでる情報は?」
「やっぱりビジネスしてて気づいたことですね。例えばライティングノウハウとか」
私は鯉次郎と5年の付き合いだ。年は8つ離れているが、先輩も後輩も関係ない。
「鯉さんの書いてるライティングノウハウ情報、私はあまり価値を感じないんだよね」
「……え?」
言ってしまった。私はつい正直に言ってしまうのだ。
「私は鯉さんのライティングノウハウよりも、奥さんに教えた内容のほうが、よほど価値を感じるんだ」
「ど、どうして?」
そういう反応になるよね。
「奥さんってビジネスに関して、ほとんど知らないじゃん」
「そりゃ妻はブログしかやってないからな。ただの日記」
「でも、さっき1日でアクセス数600きたって知って、びっくりしたよ」
「日記のアクセス数なんて、そんなもんじゃないの?」
私は首を横に振る。
「私も鯉さんも、日記のアクセス数なんて100来れば大健闘じゃん」
「……そうだったっけ」
「奥さんは600、6倍だよ」
私が鯉次郎に唾を飛ばさないよう、気をつけながら言うと
「でも、それは道子のノウハウであって、俺のノウハウでないからなあ」
「でもでも、話のネタとか、こうしたら面白いってのは、言ってるんでしょ?」
「そりゃ……言ってるには言ってるが、全部道子が消化してできた能力だから」
「道子さんだけじゃないよ、伝助君の出来事も……」
かれこれしているうち、夕方になった。私はこの後、東京へ行かねばならぬ。
「鯉さん、お互い頑張ろうね」
言いながら、私は去った……今の私はめがび神社の声みたいな存在になっていたのだろうか?
--あなたも同じ理由で止まってますよね。
気のせいか、声が聞こえた気がする。
家族一同めがび神社へ
「私もめがび神社行きたい」
めがび神社初参拝からおよそ一か月後の一日、道子が鯉次郎の肩をぐいぐいひっぱった。
「伝助はどうする?」
「俺は行かない。友達と遊びに行くし」
夫婦そろってめがび神社にいった。心地よい風に包まれた。
「あなた、この風、わかる?」
「ただの風だろ」
「違うの、これはね、神様が歓迎してくれてる風なの」
鯉次郎は微笑んだ。これが良くて道子と付き合い、結婚に至ったんだと。
鳥居をくぐり、賽銭箱前に立つ。
「あらあ」
夫婦そろって一万円が出ていった。自分たちで払った気など
「偽っても無駄ですよ」
道子が消えた。景色も消えた。俺だけが、残った。
「あのとき、記事を期待していたのに」
鯉次郎は胸を押さえた。
「まあ、どーでもいいでしょう。次も記事を期待していますよ」
「ちょっと待ってください」
「どうしました?」
鯉次郎はあたりをむく。
「す、すいません。あの時、記事を書けるといったのに、結局消してしまって」
「本当ですよ。すごく楽しみにしていたんですよ」
とてもやさしい声だ。
「あ、あの、一つ聞いていいですか?」
「なんでしょう?」
「お、俺にとって有益な記事って、なんでしょうか?」
鯉次郎はまっすぐ見つめた。
「ビジネスノウハウとかでしょうかね。特にAIを使った最新マーケティングノウハウは、あなたの得意分野でしょ」
鯉次郎は力強く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「それでまたパソコンの前に立つと、頭が止まると」
鯉次郎は固まった。
「そもそも、あなたにとって有益って何ですか?」
「それは……ビジネス系ノウハウとか、マーケティングとか、AIを使った稼ぎ方とか」
「あなたはすべて没にするんですよね」
鯉次郎の前にモニターが現れた。腕を組み、パソコンの前でにらめっこしてる姿が映った。
「は、恥ずかしい限りです」
「どうして恥ずかしいのですか?」
「き、記事を書けない、から……」
しばらく静かな時が流れる。
「ここでのやりとりも、最後は消しますよね」
「……たぶん」
「書いた記事を消すときって、何かあるんですか?」
鯉次郎は腕を組み、
「こんなの読んでも、読者の役に立たないだろうと」
「あなたの読者ってあなただけですか?」
頭蓋骨が割れて、空気がしみ込んだ気がした。
「何を言っているんですか。読者は私じゃありませんよ」
「じゃあ、21歳女子大生は読者になりますか?」
別の頭蓋骨が割れて、空気が抜けた気がした。
「45歳サラリーマンは読者になりますか?」
「……なるでしょうし、ならないでしょう」
「65歳マーケッターの男性、年収1億の起業家は」
「……わかりませんよ」
似たような問いが続いた。
「25歳で、今からnoteの新規投稿した、あなたと同じ分野で記事を書いている朝山さんは、読者になりますか?」
「……なるんじゃないですか」
「朝山さんはあなたですか?」
鯉次郎は笑った。
「私はとっくに25歳過ぎてますよ」
「あなたの記事はどういうところが、朝山さんの役に立たないと考えます?」
頭がこんがらがってきた。
「わかりません。朝山さんがどういう人か、わかりませんし」
「なんで自分の記事は役に立たないって、決めつけたのでしょうか」
戻るのか。
「朝山さんがどういう人かもわからないのに、有益は決めつけられるのですか?」
「あ、あのう、何が言いたいんですか?」
鯉次郎の心がどんどんと叩いている。
「あなたの心はすでに分かっていますよ。そして今も待っていますよ」
「だから何を」
「いやあ、すっごーーい」
道子の声が聞こえた。景色が戻った。道子が目を輝かせていた。
「……何か言われたか?」
「伝助のことについて、いくつか、ね」
「なんだ、それは」
道子は鯉次郎の瞳を見て、
「もう少し伝助を見守ってなさいって」
ここまでお読みいただき、ありがとう。
この後、鯉さんは少しずつ時間をかけて、記事を投稿できるようになった。
有益な記事を……思った?
私もわからないんだ。私は有益だと思うよ。
この前、鯉さんと会ったとき、ぼやいていたんだよ。
「記事を書くのは楽しいが、読者の役に立ってるかどうかはわからない」
私は鯉さんが一歩進んだと思ったよ。
あなたもわか……鯉さんと似たところでつまづいてる?
私もつまづいてたからね。
ほら、この記事のどこが有益か、私だってわからない。
でも書いてる。これが答えだと思ってる。
……何をしたらいいんだろうって?
記事をあげる直前で、自分が反対する?
じゃあこっちを読んでほしいな……今執筆中だけど。









