noteに記しためがび神社を、notebookLMで解説しました。
記事はこちら
note記事を開くのが面倒なら……
人生の失敗と過ち
人生に失敗や過ちはつきもの。
失敗は挽回や笑い話にできるが、過ちはどうだ?
「おお、ついた」
菊田新平(きくた しんぺい)は今年で65歳を迎えた。職場で定年を迎えた。
娘こと彩音(あやね)の安産祈願を願い、めがび神社を訪れた。
……ふう、……おし、……くそっ、……殺してやる、……悪いことをしたな。階段を上るたび、自分の人生が浮かぶ。
賽銭箱の前に立つ。100円100円1万円!?
「嘘だろ」
「孫が無事に生まれるなら、そのくらい安いはずでは?」
声が聞こえたと思ったら、あたりが真っ暗になった。
「ここは」
「どこでもいいじゃないですか。あなたが呼んだのですから」
「あ? 俺はこんなところ」
「ほら、お相手がいますよ」
新平は一歩下がった。若いころの自分がいる。奴はにやりと微笑み、いきなり殴りかかってきた。
先手を取られた。頬、腹、腹、苦しい、やめろ。足をつかんで馬乗り、殴……俺を殴るのか?
しまった。頭突きだ。目つぶしだ。苦しい。息が上がる。なんで、なんで、なんで俺が、こんなガキに殴られなきゃならないんだ。
「情けないですねえ」
目の前にいた自分、ケガは消え、声だけが残った。
「年だからな」
「少しは大人になりましたか」
「当たり前だろ、65だぞ65」
痛くもない。新平は立った。
「お前、何がしたいんだよ。罪と向き合ってやつか? 悔しさでいっぱいだ」
「3日後に生まれてくる、あなたの孫の未来ですよ」
あたりは明るくなった。新平は数分立ち尽くした。力も入らなくなった。
初孫と新平の生い立ち
「ほら、じいちゃんだぞ」
新平は孫の智弘(ともひろ)に笑顔を送った。智弘は無言で見つめた。
毎日が楽しい。智弘はじっと見ている。楽しい。智弘はおもちゃを口にくわえる。楽しい。近くにあったライターを口に、急いで取り上げる。
新平は智弘を抱いて、娘らと一緒に買い物へでかける。智弘を見ているだけで楽しい。
彩音を見る。きゅうりを真剣に選んでる。
彩音は俺と違って、従順でおとなしい。時々娘にナイフで腹を突き刺される夢を見た。いつか孫に突き刺されるのか?
……お前は何者かって?
俺は悪い奴だよ。智弘も寝ているから、少し昔話をしようか。
親はクズだった。15で初めて両親を殴った。気分がよかった。
友達はそっちばかりできた。よくつるんで喧嘩もした。
勝つ時は相手の心を折るまで殴る。負けたときは頃合いを見てやり返す。
復讐の一つは今でも覚えている。そいつに彼女がいたから犯してやった。
それを笑顔でそいつに言ったときの絶望は、今でも覚えている。
逮捕? ならなかったよ。お互い悪だしな。
社会人になってから、喧嘩の舞台は職場になった。職場では毎日上司に怒鳴られながら働いていた。ある日、仕返しをして上司が病院送りになった。この時は逮捕されるかと思って、ひやひやした。
飲み屋で知り合った女と意気投合し、結婚した。
長女の彩音のほか、息子の優斗と純彦が生まれた。
ところがだ。信じてた妻に裏切られた。あんにゃろう、浮気してやがった。
妻と離婚した後、親権は向こうに取られた。
勝てない現実に初めて挫折を覚えた。
その後、元妻はさらに別の男と浮気し、そいつから病気をもらってなくなった。子育てもろくにしておらず、彩音たちが心配だった。
孫に出会えなかったのは、あいつへの罰だと思っている。
いい気味だと思った後、少し寂しくなった。
「じいちゃん」
彩音の一言で、新平は我に返った。智弘は新平の表情をじっと見ていた。
「ああ、買い物終わったんだな」
新平は笑顔に戻り、智弘を撫でた。
18年後
「東京大学に受かったのか」
立つことすら辛いと感じるが、心は大いに立った。
「じいちゃん、俺、頑張ったよ」
「ああ、よくやった」
新平は腕を組み、改めて18年間を振り返った。
優斗は独身のまま、今もネットで何かしらの仕事をしている。まあ、引きこもりだ。
純彦は結婚したが、事故であの世へ旅立った。俺があの世へ行ってやりたかった……。
そして目の前にいる智弘は、時々けんかをした。受験中、なかなか模試でいい点数が取れず、八つ当たりしていた。新平はイライラし、智弘を殴った。智弘はにらんだが、それまでだった。
「智弘、二人で神社に行かないか」
「神社? なんで??」
「ふと、お前を連れていきたくなってな」
智弘はまだ運転免許取得中であり、新平が色々操作技術を教えながら、めがび神社にたどり着いた。
「なんか、この神社、怖い」
智弘の一言に
「初詣以来だな、そして」
今なら声が聞こえるはずだ。新平は一万円を孫に渡した。
「おお、くれるの」
「誰がやるか、さい銭箱にこれを入れろ」
「え、一万円だよ、ええええ」
新平はもちろん、智弘も無意識に一万円を入れた。
「生きててよかったですね」
あたりは暗く、何十年ぶりに変なところへ引き込まれた。
「毎日、気が気でなかったがな」
「何度かその危機はありましたけどね」
新平は無言でうなずいた。
「さすがにわかっていましたか」
「智弘は今、ここにいないんだよな?」
「いませんよ」
新平はふうっと息を吐いた後、
「孫を殺そうと思ったときもあった」
「でしょうね。なんで殺さなかったんですか?」
本当は答えたくないが、口が勝手に出る。
「抑えたからだよ。もう俺は若くない。もう俺は喧嘩では智弘に勝てない」
「でも、自分の命を守るためなら」
「俺はそこまで落ちぶれていねえ」
「嘘つくなよ」
新平の前に、あの時の自分が現れた。新平は手を広げた。
「裏切り者」
後ろを向くと、元妻が現れた。
「よくも俺の女を犯したな」
左を向くと、あいつ……あれ、この顔、まさか、まさか。
「彩音の旦那にそっくりですねえ」
新平は心臓が苦しくなった。
「大丈夫です、ここはどれだけ苦しくても死にませんから」
「俺を、罰したいのか」
「それはあなたが一番知っています」
ああ、この顔。この声……全部俺の人生にいたやつらだ。
「許してくれ、赦してくれ」
「いやあ、楽しいですねえ。自業自得というエンターテイメントは」
「お前を、殺したい」
「どうぞ」
新平の前に智弘が現れた。孫はにやっとしていた。
「ふざけるな」
「どうして? 肉体が智弘そっくりな別人ですよ、じいちゃん」
やめろ、やめろ。
「やれないなら、ほら」
智弘はナイフを握っていた。新平にナイフを握らせ、智弘の胸を一突き。
孫の胸から血が流れ、消える。
「ああ、あなたは孫を殺してしまいました」
「お、俺は、俺は……」
新平は智弘が赤ちゃんだったときの記憶を引き出す。幼稚園、小学生、中学生、高校生そして今。
「もう一度、ナイフを握りな」
今度は自分自身がいた。涙を流してる自分がいた。再び新平にナイフを握らせ、ひと
「やめろ」
新平はナイフを強く握って自分を刺さなかった。
「さすがに自分はやれませんか、わが身かわいいですもんね」
「なんでこんなことを、こんなことを」
心臓がうるさい。止まってくれ。止まれ、動くな、お願いだ。
「あなたが望んでいたからですよ」
「じいちゃん」
あたりは明るくなっていた。智弘は突っ立っている。
「い、生きてる」
「大丈夫?」
新平はうなずくが、智弘の目が怖かった。
「どうした?」
智弘は口を何度かぱくぱく開けた。拳を握り、新平をにらんだ。
「どうしたんだ?」
「俺、じいちゃんを許せない」
心臓は動く。
「な、何か言われたのか、ここで?」
「爺ちゃん、犯罪者だったんだね」
新平の心臓は静かに動いたままだ。
「爺ちゃん、レイプしてたんだ。父さんの爺ちゃんの元彼女を。ほかの人も。じいちゃんが不良なのは知ってたけど、そこまでとは思わなかったよ」
声から「言うな、やめろ」が出ない。体が元気ならこ、この場で
「そして俺も殺そうとしてたことも」
「そ、それは違う」
「わかるよ。俺も爺ちゃんを殺してやりたいと思ったこと、あるから」
助けてくれ、誰か。そこのお前、見てないで助けてくれ。孫が、怖い。
「で、爺ちゃんは俺を殺すの?」
「こ、殺さないよ」
智弘はにらみながらうなずき、大きなため息をはいて、
「じいちゃんの非道、俺の胸だけにしまっておくよ。ほら、帰ろう」
智弘が背中を向けた。今だ。口をふさげ……新平の手がささやいた。
勝手に手が動く、孫の首めがけて……やめろ、ころせ、ダメだ、やれ!!
「やっぱ俺を殺したいんだ」
孫の背中がささやいた。
「誰が殺すもんか。俺はそこまで落ちぶれていない」
智弘がこちらを向いた。日があたる。
「じいちゃん、やっぱ俺を始末する予定でいたんだ。俺、返り討ちにしてやるからね」
智弘は笑った。
ここまでお読みいただき、ありがとう。
いつもめがび神社の中身がビジネス系や心のもやだったので、今回はどれでもないものを書いてみようと思った。
こんなのができるとは思わなかった。
今回できた記事、僕は何を引きずり出したかったのだろう?
文章を、いや、作品を出さなければ気づけない何かがある。
裏でたっぷり語っていくよ。









