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面倒な人向け。
僕が「笑う」とき
ツイッターにある「笑わせようとしていない(むしろ怒り)、いたって真面目なのに、とても笑ってしまう投稿」を見ると、世の中「才能にあふれているなあ」実感できる。
才能の塊がめがび神社で参拝した。この時の話が面白かったので、あなたにも伝えたい。
地方営業を大事に扱うピン芸人、葉山秋山(はやま あきやま)あてに、芸能事務所から仕事依頼のメールが入った。
「この神社に行きたいランキング」にて、番外編の「この神社が嫌いランキング」上位にめがび神社が選ばれた。なんたる不名誉だが納得できる。
一週間後。葉山は撮影クルーらと一緒にめがび神社へ訪れた。
※事前に撮影許可をもらっている。
葉山は鳥居をくぐる。特に怖い印象はない。巫女さんが頭を下げる。笑顔がいい。参道を歩く。特に変わったところはない。参拝者が手を叩く。参拝を終え、魂に引っ張られるような歩き方をしていた。
「お、おおおい、大丈夫か、戻ってこい」
葉山の一言に外国人参拝者ニックの頭が震えた。
「こ、ここは恐ろしいところなりよ」
「日本語うまいんかーい」
夏野みどりマネージャーはガッツポーズを取った。広田冬彦ディレクターが「後で彼らに取材してみよう」言った。カメラマン富山武人は無言でカメラを回し、アシスタントディレクターの若林優斗は顔をこわばらせて葉山を見る。
「さあ、俺の番だ」
葉山は賽銭箱の前に立つ。カメラマンが神社の許可を得て、撮影する。周りは見守る。まずは10000円……って100円はどこ消えた?
あれ、なんで自分は財布を取り出している。止まれ。手、止まれ。
入れた……二礼二拍手、無意識にやってる。
「よく来ました。悪評の多い神社に」
声が聞こえた。みんな、どこ?
暗く、自分以外誰もいない?
「あなたしかいませんよ」
どこから声が聞こえる?
「どこでもいいじゃないですか。面白いでしょ」
「いや、面白いというより怖いんですが」
葉山は震えながら言った。
「本当に怖いのは、あなたのリアクションにだれも笑わない現実では?」
そりゃ悪評だ。
「あなたの芸、面白いんですけどね」
顔を向けた。
「あ、あのう。どこが面白いと思います?」
慎重に尋ねた。
「あなたが笑う時って、どういう時ですか?」
体が崩れた。
「あ、あのう、私の質問、聞いてました?」
「あなたはどういう時に、自分の芸が面白いと感じます?」
なんだこの神……ってか、なんで声がお笑い学校の恩師、坂本先生にそっくりなんだよ。
「どういう時といわれましても」
「あなた、前にいた参拝者につっこみを入れていたではありませんか」
参拝前のあれか?
「あれは計算です」
「あなたの面白さはそれですね」
なんか、いらだつ。
「すぐ面白くないに目を向けてしまうのですね、もったいない」
なんだよ、こいつ。
「何をいらだっているのです? あなたは芸人ではありませんか」
「芸人だっていらだつ時はありますよ」
「カメラが回っているのに?」
え?
い、いつの間にかみんながいる。カメラも回っている。
「あ、あ……」
カメラがじいっと葉山を映す。な、なにか、こ、言葉を。
「本当、腹立つ神社ですわ」
1か月後
めがび神社のロケが放送される。葉山は缶ビールを片手にテレビを見ていた。最初、自分がモニターに出ると、恥ずかしさを感じる。
他人に対してツッコミを入れてるときは笑ってしまう。最高じゃん、俺。
いつの間にか一万円を入れている。ちゃんとナレーションも入ってる。
やっぱりおかしいよ、あの神社。
二礼二拍手を終えた。ここからだ。
葉山は缶ビールを強く握った。
2秒もかからず、向こうの葉山は引きつった顔を見せた。
「一体、葉山に何があったのか」
ナレーションが煽り立てる。
「本当、腹立つ神社ですわ」
司会の森田さんは真顔で向こうの葉山を見ていた。笑わせたかった……。
番組が終わる。ビールはもうない。酒に酔いながらも思い出す。
「自分が場を和ませるために笑いを創った。周りが笑うようなツッコミを入れた。それがあなたの面白さだ」
確かそういわれたな。ほめられてるのか、これ。でも腹立ってる、俺。
電話、同期の大空君だ。彼の芸名は「あさって大空」だ。
「葉山、見たよ」
「おお、ありがとう。どうだった?」
「途中までは面白かった。最後の腹立つ神社は面白くなかった」
葉山はうなずいた。
「本当は、計算でなく自然と笑いを取りたかったんだけどねえ」
葉山がつぶやくと、
「お笑いは計算でしょ。俺、絶対できないもん」
「俺は天然で笑いを取る大空君がうらやましい」
「俺だって計算で笑いを取る葉山がうらやましいよ」
お互い体が入れ替わったら面白そうなのに。
「それより葉山、めがび神社って怖かった?」
「あ、うん。怖いには怖いが、お化けが本当に出て驚かせるというより、説教される怖さがあるよ」
「せ、説教?」
葉山は大空にめがび神社で起きた出来事を話す。
「……なんか俺、腹立ってきた。めがび神社の神様め、いろいろ言いたいこと言いやがって」
「じゃあ、その神様を笑わせてやったら、いいんじゃね?」
大空の提案に葉山は笑う。
「神様を笑わせる……か。何したらいいんだろう」
「そんなもん、基本に戻れじゃね? 坂本先生もよく言ってたじゃん」
心がふつふつと湧き上がる。怒りではない。
「俺、明日でも坂本先生に連絡を取ってみるわ」
久しぶりの恩師
「やってみろ」
久しぶりに会うなり、坂本先生は言った。心が直立した。
「いや、そこはお久しぶりやないかい」
「6秒」
坂本先生は真顔で葉山を見る。
「これだけ間が開いたら、お客さんを多く笑わせられんぞ」
「……すみません」
「ま、察しはついてるよ」
坂本先生は白い歯を見せて笑った。
「先生、実は……」
葉山はめがび神社で起きた出来事を語った。
「今のお前はお笑いの仕事、入っているんだろ?」
「はい、次もロケです」
「うまくいっているじゃないか」
先生の言葉にすくわれる。
「でも、むしろ、だからこそ、自信がない」
「さすが先生、俺の思っていることをしゃべってくれる」
先生は手をたたいた。生徒たちがぞろぞろ現れた。心が引き締まる。
「自信がない時は、自信を認めるまで基本に戻ればいい。じゃあ、今からみんなの前でやってみろ」
新人らの目が冷たかった。練習を終えて、先生は生徒に向けて
「葉山のように、プロになっても壁にぶち当たり、笑いを取れないときもある。先輩をよく見とけ。こうなってはいけない、じゃない。むしろお前らもこうなるかもしれない。その時は今日の葉山をよく見ておくんだ。お笑いを取るとは、こういうことだと」
葉山は拳を握った。
再び似た仕事が舞い込んだ
「……きたか」
葉山がメールを開くと、めがび神社に関するロケメールがあった。
了承した後、葉山は鏡を見る。
「1年後にいってやろうかと思ったが、5年かかっちまった」
あの時のメンバーに加え、今度は大空君もいる。
「さて、やってまいりました。めがび神社。実は5年ぶりなんですよ」
「そういえば5年前、葉山に電話をかけたとき、めがび神社にいらだってたね」
「本当、怖い神社だからな、ここは、お化けなんてやさしいレベルだよ」
番組では「えー」なのか「わはは」なのか。「えー」で驚いてほしいな……葉山は考えた。
「お久しぶり、巫女さん」
「お久しぶりです。レギュラー増えましたね」
「色々頑張りましたから……って、巫女さん、あの頃と全く年を取ってない」
めがみこがにっこにこ笑みを浮かべた。
「私、年を取らないので」
「何ここ、八百長比丘尼でもいるの?」
大空のセリフに
「そいつも過去にこの神社に参拝して、すごすご帰っていきましたよ」
「葉山より、よほどボケうまいわ」
彼は何も考えないで言っているんだ。俺と違って。
参道を歩き、さい銭箱前に立つ。やはり一万円を入れてしまった。
「あれからよく伸びました」
坂本先生でない、別の……母さんの声だ。
「どうです、神様、面白くなったでしょ?」
「あなたの面白さはあの時と変わっていませんよ。そして今、あなたはつまらない方向に行こうとしてるのも」
報われた気が消えた。
「あなたは自分のどこに面白さを感じますか」
あの時と同じ質問だ。拳を握り、
「いろいろあります。計算して笑いを取ったり、リアクションも大げさにして、何より相手の呼吸を読むようになったんですよ」
「呼吸に興味がありますね」
葉山は笑顔で息を吸い、吐いて、
「あなたが今、どういう気持ちでいるかわかりませんが、あなたは私に何かいいたくなったでしょ。それが呼吸ですよ」
坂本先生と話をしているとき、ふっと閃いた呼吸だ。
「後ね、俺、売れっ子になって。彼女できたんですよ」
「それはお笑いですか?」
「いいえ、現実です」
強く言い切った。
「今のあなたは場の空気を切っています」
心臓一突きされた気分だ。
「今、ここに広がる流れを読めませんでしたね」
「別に笑いを取る気でここにいるのでは」
「カメラが回っているのに?」
目を大きく開いた。カメラ、忘れてた。
「これで二度目ですね、大丈夫、今度はもう少し時間がありますから」
なんか神様におちょくられた気がした。やはりこの神社は嫌いだ。
「本音を隠さなくていいんですよ」
「……見ててくれよ、次こそあんたを笑わせてやる」
「それは笑いでなく脅迫です」
目を下にやった。
「どうしました?」
「いや、その……」
「ほら、ほら、ホライゾーーーン」
まさかのボケに笑ってしまった。
「葉山が笑ったあ」
大空君の勢いある声で、我に返った……カメラが回っている。やばい、これは、確実に残るやつだ。
「また説教されたん?」
「……まさか神様がボケをやるなんて思わなかった、くやしい」
「その割に嬉しそうにニヤニヤしてるやん」
そうだ、今はカメラが回っているんだ。そうだ、これが俺の弱さであり、大空君の強さだ。
「そりゃ、俺に更なるお笑いのセンスをくれたからな。笑いの神もいるんだよ、この神社。5年経ってもめっちゃ腹立つけどな」
近くにいた参拝者がくすっと笑っていた。葉山は祭壇に向けて指をさした。
「ニヤニヤしながら待っとれよ」









